一花

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今になって思い至ったのだけれど、どうやら俺はあの人の事が好きだったらしい。
向こうはどうだったのかは知らない。

あの人の手の温かさや俺の名前を呼ぶ声音をもう感じられないのだな、と思ったら身体が半分無くなってしまったみたいに自分の存在が空虚になってしまった。俺が俺であると言うただそれだけの事がこんなに難儀な事だとは知らなかった。
考えてみればずっとあの人はここにいたのだ。俺の胸の真ん中に大きな顔をして居座っていたくせに、いなくなってしまうなんて酷い事をする。

もっと早くに気がつけば何か変わったのだろうか。何も変わらなかった気もする。
まあ今となっては全て意味がないことだ。


『意味がないこと』

11/9/2023, 5:39:23 AM