あれもこれも欲しい。
そう思っていっぱいに詰め込んだ。
それでもまだ足りない。
どうしようと途方にくれていると、後ろから肩を叩かれた。
──どうしたんだい? そんなに荷物を詰め込んで。
──ああ、君か。いや、持ち物の用意をしているんだけど、どうにも色々足らなくて。
──もう君の荷物はパンパンじゃないか。
──でもないものがまだいっぱいあるんだ。現にほら、君はそれを持っているけど、僕は持っていない。これじゃあ何かあった時に困るだろ。
──では、こうしよう。君が困った時は僕の持ち物からこれを貸そう。だから、僕が困った時は君の持ち物を貸してくれ。
相手にそう言われて微笑まれたら、あんなに焦っていた気持ちがなくなり、肩がすうっと軽くなった。
【ないものねだり】
3/26/2023, 10:16:50 PM