森川俊也

Open App

何処にもいかないで。
そう言えればどれだけ良かっただろうか。
けれど、貴方は行ってしまった。私が最後まで引き留めなかったから。
ねぇ。本当に幸せだったの。他愛ないことで笑って。馬鹿騒ぎをした、あの日々が。
わかってる。貴方は死ぬわけじゃない。ただー私の知らない異国の地へ一歩進むだけ。
それなのにどうして心がこんなに空くのだろう?
「あたし、将来は医師になるの!」
そう言って笑ってたっけな。
貴方は貴方の夢を叶えるために海外へ行く。ねぇ、そうでしょう?
私のことなど気にもとめずに。
嗚呼、こんな言い方をしてしまっては貴方のことを縛りつけるかもしれない。そうしたいわけではないのに。
でも、なんでかな?貴方の夢を応援したいのに。私に縛られて欲しくないのに。縛られて欲しいと、ここにいて欲しいと願ってしまうのは。
だけど、私が何を思ってどう過ごそうが貴方は発つ。
貴方が乗っている飛行機は空へ飛び立っていく。
こんなにも近いのに、こんなにも遠い。
「待ってる、から。何処にもいかないで待ってるから。帰ってくるときは、寄り道せずに帰ってきてね。」
最後に私が呟いた言葉は届いたのか届かなかったのか。
頬を濡らす雫を拭って、静かに手を振った。

6/22/2025, 10:13:09 AM