三行

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寒い夜は、深海のようだ。
どこか寂しく感じて、時計の針が進む度に町から明かりが消えていく。
皆、夜は眠るものだから。

だから私は、海へと潜る。
外にいても寒くない格好だけをして、私は風を凌げる家屋から出発するのだ。
今の私は、さながらドライスーツを着た潜水士。

静かで、暗い世界が、目の前にはある。
街灯の明かりは、チョウチンアンコウだったように見えた。
たまに見かける、切れかけた電球のチカチカした様はヒカリキンメダイを彷彿とさせる。
どの子とコミュニケーションを取ろうとしている電球なんだろうな。私だったりするのか?
ざんねんながら私は魚では無いので交信は出来そうにないから、他を当たってくれよ。

深海は、まだ未知なる部分の多い世界だ。
宇宙に比べると、さすがに宇宙の方が未知は大きい気がするけれど。
夜には、町はまた違ったふうに見えてくるものだ。
いつも通うスーパーも、定期的に赤と緑を繰り返す信号機も。
この世界は、落ち着いていて、静かでやさしく、寂しいものだ。

私は定期的に寒い外へと繰り出す。この習慣は、ダイバーが酸素を補給しに海上へと上がってくるようなものだ。
無いと、私は私でいられ無くなる気がしている。
冬が一段と感じられるのだが、春だって夏だって、秋だってこれをしている。
ほかの季節ではどうなのか、それはまたいつか話そう。
そうしなくとも、実は誰だってその世界へは簡単に行ける。
静かであれば昼間だっていい。早朝だったら体感するのが早いかもしれないのはそうだけれどね。

安全な場所を確保してから、目を閉じて静かに深呼吸をするんだ。
すると耳が澄ましやすくなることだろう。
その世界を、まぶたの裏に想像するんだ。
きっと、あなたの中にも深海はあるだろう。
どんな魚がいるだろうか。もしくは、いないのかもしれない。
見たこともない奴が現れるかも。
なんたって、深海は未知なる世界なのだから。
気が向いたらやってみては如何だろうか。

「海の底」2024/01/21



1/20/2024, 5:15:17 PM