池上さゆり

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 女の子は誰でもプリンセスになれると思っていた。母も父も私のことを蝶よ花よと育ててくれた。ふわふわとした癖っ毛もプリンセスだからこその特権だと思っていた。
 だが、私が小学生になる頃に妹が生まれた。比べるのが嫌になるぐらい、妹は私よりもずっと可愛かった。ピンクのドレスもキラキラと輝くティアラも、すべてが妹のものになった。両親は私に見向きもしなくなった。それに気がつくと、私はこれまで好きだったものすべてを捨てた。自慢だったふわふわの髪も男の子のように短くカットした。
 私が高校生になると、妹は小学生モデルとして雑誌に掲載されるようになった。到底小学生には見えない、高い身長だけじゃなく長い脚。幼さの欠片もない大人びた顔つきはすぐに妹を人気者にさせた。
 それから知名度は右肩上りで、SNSのフォロワー数もどんどん増えていった。やがて、地上波のテレビ番組への出演依頼も来た。ハキハキとした表情豊かな誰にでも好かれる妹が放送されていた。それが家でも変わらない姿だったからこそ腹が立った。妹に少しの嘘でもあれば、嫌われる隙ができるのにと醜い機体を抱いていた。
 ある日、妹はテレビで「もうすぐ大学生の姉がいるんですけど、すっごくかっこいいんです」と口にした。そして、その流れで妹は私の顔写真を地上波に流したのだ。その瞬間ネットはざわついた。
「どこがかっこいいの?」
「これが姉妹とか現実つら」
「どう見てもブサイクだろ」
 帰宅した妹に私は顔を叩いた。商品であるその顔に傷をつけることに躊躇いなんてなかった。比べられたくなくて、ずっと日陰で生きてきた私をこいつは無理矢理引き摺り出したのだ。許せなかった。両親が不在だったこともあいまって、一度叩くと引っ込みがつかなくなった。
 両親が帰宅して、私はひどく怒られた。
「お姉ちゃんのこと自慢したかっただけなのに」
「私はお前みたいな妹、一生誰にも知られずに生きていたかった」
 妹が太陽の下で輝く蝶なら、私は夜行灯に吸い寄せられる蛾だ。太陽の下で生きていけない私は、どんな努力をしたって蝶にはなれない。
 ただの劣等感が憎しみに変わった今日を私は忘れることなく抱えて生きていく。そのうち、芽生えるであろう罪悪感に今は目を瞑ることしかできなかった。

8/8/2023, 1:48:30 PM