『パラレルワールド』
私の名前は畑飛夏子(ばたぴぃなつこ)。
現在友達とカフェでお茶の最中だ。
「夏子またスマホ見てる」
友人がふてくされた顔で苦言を申す。
「あっ、ごめんごめん!」
最近は誰かとの会話の途中でもスマホを度々確認するようになった。理由は、SNSで通知が来てないか
チェック。しかし思うような成果が得られず、
はぁと小さくため息を零した。
バズりたい。人気者になりたい。チヤホヤされたい。
今の私の心にはその野心だけが燃えていた。
だけど私の特技と言ったら
「鼻でピーナッツを吹き飛ばす」くらいしかない。
早速、動画を撮ってSNSに挙げてみたところ、
RT:0 ふぁぼ:2
「くっ、全然増えてない……!」
なけなしのふぁぼは相互フォロワーさんの
同情いいね。私はスマホを片手に頭を抱えた。
世の中には可愛かったり絵や歌が上手かったり
お金持ちだったり、自分の上位互換が星の数ほど
存在する。私なんてそもそも見向きもされないのだ。
「世の中って上手くいかないことばかりだな~」
鏡台の前でぼやいていると、
鏡に映る自分が突然話しかけてきた。
『有名になりたいか?』
「えっ?」
そして手を引っ張られ、鏡の中に引きずり込まれた。
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どうやら気を失って倒れていたらしい。
しかし、寝ている間に大きく変わったことがあった。
私が挙げた「鼻でピーナッツを吹き飛ばす」動画が
大バズりし、トレンド入り、
フォロワーが1億2000万人にまで増えていたのだ!
「うっそでしょ〜!?」
テレビでも紹介され社会現象となるほどに広まり、
街中ピーナッツだらけとなった。コンビニに売られていたバタピーは売り切れ続出で品薄状態、子どもたちは鼻でピーナッツ投げ合う「ナッツ飛ばしごっこ」に夢中になっている。
街では「鼻でピーナッツ吹き飛ばして〜!」と
声をかけられ、今や立派な有名人となった私。
「あ〜、チヤホヤされるって最高〜♪」
しかし人気にはアンチもつきもの。「つまらない」「汚い」「下品」「はやく流行終わって欲しい」などと否定的なコメントがつくようになった。
「どうせリアルが上手くいっていない奴らが
嫉妬してるんだろうな。みじめみじめ〜w」
そんなある日のこと、ライバル的存在が生まれた。
なんでも耳でバナナを剥くことができるとか。
早速、動画を確認してみたところ、そいつはまるで
手のように器用に耳を動かしてバナナの皮を
スルスル〜っと剥いていたではあるまいか。
世間のトレンドは鼻バタピーから一気に
耳バナナへと変わった。
くやしい!くやしい!くやしいっ!
そんな時、テレビに出てみないかと出演オファーが
DMに届いた。内容は、
『鼻でピーナッツを吹き飛ばす女子高生VS耳でバナナを剥くYouTuber〜頂上決戦〜』
「よしゃ!絶対勝ってぎゃふんと言わせてやる!」
テレビ局のスタジオは熱気でムンムン。
観客席からは「鼻ピー女王〜!」「がんばれ!」と
声援が飛び交う。
「それでは、始めましょう〜!」
司会者の合図と共に、私は渾身の力を込めて
鼻からピーナッツを……
プシュッ
「あれ?」
ピーナッツが鼻の奥に詰まって出てこない。
「え、えーっと……」
焦った私は必死に鼻をかむが、ピーナッツは頑として
動かない。一方、ライバルの耳バナナ女王は
華麗にバナナを剥き続ける。
「ちょ、ちょっと待って!」
パニックになった私は、床に散らばったバナナの皮で
ツルッと足を滑らせて……
「うわあああああ〜!」
ドッシャーン!
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気がつけば自分のベッドの上にいた。
どうやら元の世界に戻っていたらしい。
街中にピーナッツは散らばってもないし、以前の
なんてことないどこにでもいる一般人に元通り。
「はぁ〜、夢だったのか……」
ホッとしてスマホを確認すると、例の鼻ピーナッツ
動画はやっぱりRT:0 ふぁぼ:2のまま。
「まあ、こんなもんよね」
小さくため息をつきながらも、
心のどこかで安堵していた。
後日、私は友人とまたカフェでお茶していた。
以前のように、会話の途中でスマホを
その都度確認することはなくなった。
「SNSでバズりたいってのはどうなったの?」
「もういいや。なんか疲れちゃって」
大いなる人気には、大いなるプレッシャーが伴う。
そうパラレルワールドで学んだのであった。
9/25/2025, 5:25:07 PM