「コーヒーが冷めないうちに」
コーヒーを頼んで
彼女を待つ
約束時間より少し早めに家を出たから
まだ彼女は来ないだろう
晴天とまでは行かない
晴れた空が
僕の心情をあざ笑う
雲より上を飛ぶ
鳥の声が
僕の心を見透かすかのよう
憂鬱さを誤魔化すように
ミルクが入っていない
コーヒーを口に含む
しばらくして君が来た
きっと別れ話だろう
君にあげるために
コツコツ貯めていた指輪のお金は
もう用無しかな
彼女は終始落ち着かない様子で
ソワソワしていた
そりゃそうだろう
今から5年間付き合った相手を振るんだ
「…どこがダメだったんだ?」
「え?」
「別れるんだろう?」
「えっ!?」
「え?」
おかしい
『大事な話があるから今度話そう』
というのは
別れ話の切り出し方じゃないのか?
「その、もし良ければだけど、ど、同棲してみな い?」
肩を震わせながら君が言った
嘘だろ?
今日は別れ話だと思って来たのに
動揺を隠すために
少し冷めたコーヒーを飲む
「もちろん、したいよ」
そう言って微笑んだ
彼女が嬉しそうに頬を赤らめる
先程まで彼女に渡そうと思っていた
今までありがとうの手紙を
そっとカバンの中で握りつぶした
9/27/2025, 12:13:45 AM