どこにいようと、誰といようと、何をしていようと、構わないの。
女はそう言ってニコリと蠱惑的に微笑んだ。
華やかな黄色い花が一面咲き乱れる場所で、女の佇まいは異質だ。いや、花の方が本来そこに咲いている筈の無いものなのか。
やけに華やかで、元気で、力強さを感じさせる花は女の佇まいとも、隣にいる男ともまるで違う。
白いドレスに身を包んだ女は咲き乱れるその花の中で不思議な笑みを絶やさない。慈愛なのか愉悦なのか、感情の判断がつかないその表情は、自分もきっとそうなのだろうと男に思わせた。
どんなに離れていてもあの子は私の望む通りの結末を見せてくれる。私がたっぷりの愛情を注いで育てたあの子なら。私が教えた愛、それ以上の愛の形を、私が理想とした愛、それを覆すような愛の形を、あの子はその人生をかけて見せてくれる。
あの子が誰といるかは、大した事じゃないの。
何をするかが大切なの。
パラソルをくるくると回しながら女は歌うように囁く。
男はそんな女の横顔に深く長い息を吐く。
「あの子、か。かわいそうに。自分で選んでいると思った全ての選択が、君の教育の賜物なんてね」
そうしなきゃあの子は生きられなかったのよ。
女の声が途端に鋭く厳しいものになったのに、男は気付いて息を飲む。
あの子は私の大事な愛し子。
どんなに離れていても、私は見つめているわ。
あの子だけを。
あの子が見せる愛の形を。
黄色い花が揺れる。
大輪の花は女を見上げ、その向こうにある空を見上げている。その先にあるのは真っ暗な宙と、その中心に輝く太陽。
遠く離れた灼熱が、自分のすぐ後ろにいるような気がして、男は思わず肩を竦めた。
END
「どんなに離れていても」
4/26/2025, 4:47:26 PM