海月 時

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「君は、僕を呪うかな?」
一人しか居ない部屋で言葉だけが反響する。

「あの世ってあるのかな?」
至って普通の声で、彼が僕に聞く。僕は適当に流した。最近彼は、この手の質問ばかりしてくる。夢見がちというか、現実味がないというか。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてるよ。まぁ、あるんだったら、きっと良い所だよ。だって、誰も帰ってこないんだから。」
「そっか。…なら良かった。」
「声が小さくて聴こえなかったんだけど。何か言った?」
「いいや、何も。」

数日後の連休。僕の家のポストに、彼からの手紙が届いた。メールがあるのに、随分と古風な。そう思いながら、自室で手紙を開いた。
【親愛なる親友へ。俺は君に伝えたい事があります。】
堅苦しい言葉が並ぶ。改まってどうしたのだろうか。
【俺はずっと、死にたかった。理由もなく、只漠然とそう思って生きてきた。でも君と出会えて、少し生きたいと思えた。でも、もう限界みたいだ。俺は自殺しよう思う。きっと理解されない事だけど、君には知っていて欲しい。だから、この手紙を送ります。】
短い手紙には、計り知れない彼の思いが綴られていた。どれだけ悩んだのだろうか。手紙には修正された箇所が多々ある。
「君は、僕を呪うかな?君のSOSに気づけなかった僕を。」
君がした質問には、ちゃんと意味があったんだね。手紙に雫が落ちた。その時、裏側に文字が書かれている事に気付いた。
【PS・あの世で待ってるよ。】
僕は何も持たずに、自宅マンションの屋上に向かった。

まだ寒いこの時期の屋上は、凍えそうな程だった。でも、どうせすぐ終わる。僕はフェンスをよじ登った。
「今から逝くよ、親友。」
追い風が僕の背を押した。

1/7/2025, 3:15:24 PM