あい

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どんよりしている。
降り始めてもおかしくないのに、まだ窓は濡れていない。もしかしたら雨粒が見えていないだけで、手を差し出せば不愉快に湿る可能性もある。わざわざ移動して確かめるつもりもなく、中途半端に開いたカーテンの隙間から空を眺める。
これで今日の外出はキャンセルだ。頭が痛いとか、服が汚れるだとか、本当は気分が乗らないだけのことを、今にもぐずぐずと言い出すだろう。淹れて数分経ったコーヒーが冷めていくのは、すぐれない天気のせいか。
ベッドのすぐそばにある窓、いや、窓のすぐそばにあるベッド、だ。家具の配置は家主が決めるもので、狭い寝具が外気を感じやすい場所にあるのには意図がある。どうせ空気や風景や季節を憂うための、自慰行為に似た理由でしかないだろうが、とにかくそこに座って煙草を吸っている男。その言葉をただ待つ。
キッチンの換気扇を回すのはいつも人任せ。自分の部屋ではないので気にする必要もない。けれど火が点くと立ち上がってしまう。換気扇を回して、キッチンに留まる理由を探す。自分だって煙草を吸うのに、一緒に並んで吸いたいとは一度だって思わなかった。だからコーヒーを淹れて、黒とは感じられない黒を喉に這わせる。
「今日やっぱやめよ」
ほら、言った。持ち上がりそうな口角を抑えて、そうか、と返す。できるだけ不満気に、感傷めいて。
男は灰皿に二本目の煙草を押しつけてこちらを見た。
どんよりしている。

4/7/2023, 2:47:33 AM