苑羽

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幼い頃___おそらく四つか五つの頃だったと思うのだけれど___父とドライブに出かけた。普段は寡黙で気難しい父が、私を誘ってくれたことが嬉しくて。はしゃいだ声を出しながら、窓の外を流れていく景色を眺めていた。
やがて父の15年来の愛車は、ガソリンスタンドに止まった。父が車を降りてガソリンを補充している間、退屈な私は、ふと窓に目をやった。そして、いいことを思いつく。高揚感を覚えながら、曇った窓に指を走らせた。

暫くして補充を終えた父が、こちらを振り返る。
そして、鮮やかな微笑みを浮かべた。

窓には、父の似顔絵。きっとそれは下手くそで、でも、父に喜んで欲しいという思いだけは一丁前で。
そのときに見た、窓越しの父の笑顔が、ちょっと照れたような仕草が、私の中の幸せの記録として残っている。
「窓越しに見えるのは」

7/2/2023, 10:06:23 AM