題名『桃色の傘と透明の傘。』
あれは紺色の雨の日だった。
息が涼しい。そう、泣き過ぎてしまった日。
ぬくぬくとした初夏の雨を独りで受けていた。
今日は大切なサッカーの試合日。
なのに、雨が邪魔をした。
憎くて、ぶつける所が無い。
元々うちは弱小校。
雨が降ろうが、降らまいが負けていたはずだ。
なのに、何故雨では無い雫がポロポロを落ちてくるのか。可笑しいな。
独りで受ける雨は、監督からの助言の様に優しく監督の一喝の様に痛かった。
小さい子が母親らしき人に手を引かれて、『雨、雨、降れ、降れ、』と歌っている。
憎いな。憎いな。
他のチームメイトも同じ気持ちなのだろうか。
いつもへらへらしていて、真面目に練習をしない彼奴も。
いつも転けてばかりで何の役にも立てないと泣きそうな顔で話していた彼奴も。
サッカーボールすら蹴れない怪我を追ってベンチで唇を噛んでいた彼奴も。
皆そうなのだろうか。
ふと、爽やかな匂いが鼻を着く。
『先輩、傘は一体…、?』
右手に握られた透明の傘を見乍、彼女は桃色を傘を差し出した。
『…、悔しいですね。私も、先輩方がゴールに走って行く姿を見たかった。』
『否、元々弱小校なんだからどうせそんな事出来無いよ。きっとな。』
そう言うと彼女は口を閉じた。
目を伏せて、また口を開き『そうですか。』と零した。
右手に握られた僕の透明傘は役に立たない。
彼女の桃色の傘は、優しくて、寛大な彼女の心に似ていた。
2023.6.19 【相合傘】
6/19/2023, 10:53:00 AM