目が覚めたら、(先輩の)体が縮んでしまっていた!
……なんてことはなく、僕はこの状況が夢だとわかっている。現実に幼児化する毒薬は存在しないし、さっきから先輩に顔を容赦なく引っ張られているがこれっぽっちも痛くないからだ。普通、人間の頬はこんなに伸びない。
おおよそ3歳くらいと見られる先輩は、縦横無尽に跳ね回る怪獣のようだった。床を蹴り、壁を蹴り、僕を蹴って飛び上がる。夢の中だからってそんなに超人にならなくても。現実の先輩もかつてはこんな感じだったという可能性には目をつむる。だって怖いので。
それでもなんとか先輩をあやし、なだめすかして膝の上に乗せて抱きかかえる。これで一安心だ。先輩は僕の膝がお気に召したらしく、ここが玉座であるかのようにふんぞり返っている。なんというか、今の先輩とは違うけど、これはこれで先輩らしい。
いかにも夢らしく、理由はないがそろそろ朝になるとわかったので、小さな先輩を床に下ろし、ばいばいと手を振る。すると先輩はくりくりの瞳と同じくらい大きな涙をぼろぼろとこぼし、「いかないで」と消え入りそうな声で言った。
その破壊力と言ったら! ちっぽけな先輩を抱きしめて、僕は「どこにも行かないよ」と囁く。ひとりではとても生きてはいかれない小さな命が、とくとくと僕の腕の中でうごめいている。叶うなら、ずっとこうしていたかった。ずっとこの夢に溺れていたかった。
そんなことが許されるはずもなく、無慈悲にも僕は目を覚ます。手のひらに小さな温度が残っている気がした。僕はあの小さな怪獣のような先輩が、無事に今の神様みたいな先輩へと成長してくれることを祈る。
ところで、昼休みに顔を合わせた先輩に「君がひとりで巨人みたいに大きくなるから羨ましくて大暴れする夢を見た」と言われた。先輩の方が小さくなってたんですよ、と言いたくなるのを僕は既のところで堪える。僕が一瞬でも今の先輩より小さい先輩を選んだと知ったら、先輩は小さくなくたって大暴れすることだろう。
1/14/2026, 5:11:42 AM