short delusion

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喪失感



私の彼氏はタバコを吸う人
帰ってくるといつも煙たい匂いがお出迎え。

正直最悪。


「ねえ、部屋で吸うのやめてくんない?」

「んー、気を付ける」

「いつもそういうよね、で、次の日これ」

「ごめんね~?」


ため息をついてソファにどかっと腰をおろす

反省していないかのように、
…いや、訂正
反省していないので、

またタバコに火を点ける


それでも大好きだから許しちゃう。
結構ハマってたワケだ



そんなあいつと別れた。

理由はタバコ。
自分の部屋が火事になって私の所に居候するなんて言ったから

もっとロマンチックな言い方がよかったのに!

そんなこと言って、出ていっても追いかけてもくれない。
帰ってきたら誰もいない。

堪忍袋の緒が切れて、私からサヨナラを悟らせた。



そういえば
あいつは、いつも私のベッドに
私よりも早く潜り込んで私を手招きしてた。

そして、寝るまで背中をとんとん触れてくれてた。

一人で温もりを感じない広すぎるベッドで雨の音を聞きながら朝まで過ごした。

寂しかった。




少しして、
新しい彼氏が出来た。
私の彼氏はタバコを吸わない人

帰ってくるといつも子犬みたいな彼がお出迎え。

正直最高。



…でもそれは他の人からしたらの評価でしかない


彼は完璧だと思う。
それはもう私とは釣り合わないくらいに。


家事も手伝ってくれる。

体調が悪いときは側に居て、
落ち込んだら慰めてくれる。

飲み会だって出来るだけ行かない。

行ってもすぐ帰ってくる。



でも、私が求めているのとは違った



家事は全部私に頼る

体調が悪いときはそっとしておいてくれて、
落ち込んだら笑い話にしてくれる。

飲み会は程よく楽しんで、

嬉しそうな顔で帰ってくる。


あと、タバコの匂い


あの時は煙たかった匂いも
今は懐かしく愛おしい



火を点ける横顔とか

目を細めて笑うところとか

普段はお前って呼ぶのに、
友達の前だと名前で呼んだり

絶対、浮気しなかった

帰ったら必ずあいつが居た
合革がボロボロになったソファに家主のように大股開いて

「おかえりー」

と、笑ってた。




結果。
完璧彼氏とも別れた。

私からさよならを告げた

彼は泣いた。

私も泣いた。


けど、次の日からはあいつを探した

どこにいるのかも分からないあいつを。


いつも吸ってたあのタバコの匂いを感じると振り向いてしまうんだ。


結局ハマってたワケだ


「あ、もう日の出…」





『喪失感』

9/10/2024, 12:11:40 PM