夜は苦手だ。
静かで冷たくて凍えてしまいそうになる。
過去の嫌な記憶が頭を巡る。
固く瞼を閉じて、末端から消えていく温度に気がつかない振りをしながら早く時間が経つことを祈った。
「ねえ」
いつもより数段柔らかい声が耳を撫でる。
返事はしないまま近くにいるそいつの手を手探りで見つけ、握った。
体温の高いそいつの温度が染みていく。
あったかい。
「うわ冷た…急に握らないでよね」
文句を言いつつ手を離す気配はないことにほくそ笑む。あいつに気取られないよう指を絡め、体温を貰う。
私のことが嫌いなくせに私を放っておかないお前の体温で今日も生き長らえる。
「…おやすみ、またあした」
意識を手放す頃にはもう寒くはなかった。
1/26/2023, 3:29:51 PM