鯖缶

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人気のない薄暗い路地裏で君と僕は対峙する。
「僕は、君に対して抗えないほどの欲望を感じている。」
君はじっとこちらを見つめたまま動かない。
「わかってる…君が話せないにも関わらずこんなことをわざわざ言うのはただの自己弁護のようなものだと。」 
君の目が僕の心の奥を見通すかのように細まる。
「君を初めて見かけてからもう一年以上になるんだ。僕は君に会いたくて、君を見かけた場所に足繁く通うようになったし、君も次第に僕のことを認識して距離は縮まったように思う。」
僕は少しずつ君との距離を詰めていく。君の体がピクリと震える。
「まだ、駄目なのかい。」
君は僕の一挙手一投足を注視しながらも、じりじりと後ずさる。
「僕は君に、」
その瞬間、君の身体はしなやかに躍動し僕の前から姿を消した。
「触りたいだけなんだ…。」
人気のない薄暗い路地裏で、僕は一人項垂れる。
今日も逃げられてしまった。
気品と愛らしさ、そこに鋭さを兼ね備えた僕の運命の野良猫、クイーン(仮)に。

3/2/2023, 12:48:33 AM