イベントで沢山の人が集まる。
恋人の彼は職場の人達と行き、私も職場の仲間と行った。
同じ空間に居るけど、こういう時は傍にはいないことが多い。
元々、イベント事は職場の人達と行くことが多かったから、お互い気にしていなかった。
それでも、時々耳に入る彼の声に、心が反応した。
そばに居たいなと思う時が、ほんの少し、ほんの少しだけある。
こんなことを思うのは私だけなのかな。
でも、わがままも言いたくないし、職場の時間を大切にして欲しいし、私も大切にしたい。
だから、心に蓋をして、家に帰ったら全力で甘えよう。そう思っていた。
ぽこん。
スマホに彼からメッセージが入った。
『少しだけ、抜けられない?』
パッと見回すと目が合う。すると口元に片手でごめんとジェスチャーをしてきた。
慌てて社長に声をかけて、少しだけと許可をもらうと、スマホに『OK』の返事をする。
走って彼の元に行くと、彼も気がついてこっちに走ってきてくれた。
「ごめんごめん。多分すぐ買えると思うんだ」
そう言うと彼は手を取って歩き出す。向かうのは売店で、今日だけの特別メニューがあった。それは一際目立つカラフルなクリームソーダ。
クリームソーダは私たちが好きだし、付き合うまでのきっかけになった特別な飲みもの。
「どれ飲みたい?」
彼は挑戦的な視線を向けながら、微笑んでくれる。だから、私も応えるように笑った。
「もちろん、クリームソーダ!」
―――――
買い終わったあと、お互いの職場に戻るため、今度は少しだけゆっくり歩く。私もゆっくりになってしまったけれど、彼の歩みも重かった。
「突然、呼び出してごめんね」
「ううん、呼んでくれて、嬉しかったです」
「良かった」
彼は安心するように息をつくと、歩くのを止めて私を見つめてくれる。
「ちょっとの時間だけでも、思い出欲しかったんだ。少し寂しかったし」
その言葉に驚いた。
それ以上に嬉しくて、顔が見えないように彼の肩に額を乗せた。
「そう思ったの……私だけかと思ってました」
お互いが、寂しさを覚えていたこと。
お互いが、思い出を欲しかった気持ちがあったこと。
それが知れて、とても嬉しい。
彼は、その気持ちに同意してくれるように、顔を傾けて頬を寄せてくれた。
「もっと寂しいってわがまま言ってよ。俺だけ寂しいのかと思った」
お互いに身体を離して視線を合わせると、同じことを考えていたことにふたりで笑いあった。
おわり
お題:私だけ
7/18/2024, 11:37:13 AM