白眼野 りゅー

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「思うに、選択にこそ人格が宿るんじゃないかな」
「何急に。持って回った言い方しちゃって」
「つまり僕は、君の人格を愛してるってことだ。イカの塩辛が好きな君が好きってこと」

 君が、買い物かごに入れようとしていた塩辛をさっと背中に隠した。


【I love what you love.】


「隠すことないじゃん。僕は君のそういう、若い女性らしからぬ選択が好きだと主張してるんだ」
「いっそストレートにおっさん臭いって言ってよぉ……」
「別に、いわゆるおっさんと取る選択が類似しているのは重要じゃないよ。君の選択は、『好き』は唯一無二だ」
「……難しい言い回ししないで。よくわかんない」
「うーん……」

 僕は少し考えて、続ける。

「チョコミントのチョコ抜きみたいなアイスを好んで食べる君が好き。昔大炎上した歌い手のことを今でも好きな君が好き。エメラルドゴキブリバチの話を目を輝かせながらするほど好きな君が好き」
「悪趣味としか言われたことないなあ……」
「君の『好き』をジグソーパズルみたいに全部集めて並べたら、その中心に空洞の君――君の型みたいなものが現れる。その輪郭が、好き」

 淀みなく言いきってから君の表情をうかがう。君はちょっと困ったような、でも嫌がってはいなそうな顔をしていた。

「君も、私を形作る選択の……『好き』の一つだからね」

 びっ、と人差し指を立てて、まるで啖呵を切るみたいに君は言った。

「……この趣味嗜好を持った人に好かれてるのかあ、僕」
「ちょっと! やっぱり君も悪趣味だと思ってるんじゃん!」

 頬を膨らませる君の抗議を笑って受け流しながら、君が選んだ僕も持っているはずの、君の断片を思った。

6/12/2025, 1:09:31 PM