とある恋人たちの日常。

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 ことん。
 
「あっ……」
 
 小さい声に反応して振り返ると、テーブルからマグカップが落ちていた。
 今の床はカーペットを敷いていたから、特に割れることもなく重い音が響く。
 
 転がったマグカップは空だったから、特に汚れなかったが反応できない彼女に少し驚いた。
 
 俺はマグカップを拾って彼女を見つめると、どこかふわふわしているように見えた。
 
 俺は迷わずに彼女を抱きしめると、彼女は俺に身体を預けてくる。
 
 うーん、温かいなー。
 と言うか、ちょっと熱いかな。
 
「今日の予定はー?」
「お仕事ですけれど……?」
 
 彼女は責任感が強い方だから、何かあると無理してしまう。それが分かっているのに、微熱のある彼女を仕事に出すのも気が引けた。
 
 だから、俺のせいにしてもらおう。
 
「今日はお仕事お休み。軽くだけれど熱があるよ」
「え。でも迷惑かけちゃう」
「悪化して身体を壊したらもっと長引くよ」
 
 俺を見上げながら、おろおろとしているのが分かって、また可愛い。
 
「医者の俺が言うんだからダメです。今日はお休み! 仕事行ったら無理しちゃうでしょ」
 
 キッパリと言い切ると、彼女視線は泳ぎまくる。
 
「そ、そそそ、そんなことナイデスヨ」
 
 裏返った声は、予測を確信に変えた。絶対、そうでしょ。
 
「だーめ。俺が無理したら心配するし、怒るでしょ? 俺も同じだからね」
 
 それを言うと、彼女は言葉に詰まった。
 そして唇を尖らせて、涙目で見上げる。熱のせいでほんのりと頬が紅くしているから尚更可愛い。
 
「じゃあ……」
 
 彼女はぎゅうっと俺を抱きしめてくる。多分、寂しいのだろうな。
 
「今日はお休みします」
 
 安心を伝えるように、彼女を抱き締め返した。
 
「うん。俺も今日は早く帰るからね」
 
 そう伝えて、額に唇を乗せる。
 やっぱり熱いから休ませて正解!
 
 
 
おわり
 
 
 
一九四、微熱

11/26/2024, 11:25:27 AM