ほろ

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飲みすぎた。足元がふわふわしている。
「吐かないでくださいね」
私と一緒に飲んでいたはずの先輩は、平然とした顔で肩を貸してくれている。
「はかないれすよー」
右耳に先輩の溜め息が侵入する。常にニコニコしている先輩が溜め息。もしや、失望させてしまっただろうか。
ちょっとだけ顔を先輩の方に向ければ、先輩も私を見ていた。
「仕事の愚痴に付き合うのは構いませんが、あまり無理をしないでくださいよ。こんなに酔っ払うまで飲んで……倒れられても困ります」
「はぁい」
「本当に分かってるんですか」
だって先輩。
ふわふわ。クラクラ。どんどん視界が歪んでいく。返事も上手くできているか分からない。そんな中、カッ、コッ、と何かが外れる音がする。体がバランスを崩して、思わずその場にしゃがみこむ。
「はれ?」
「おっと……ああ、そのまま動かないでください。ヒールが片方脱げています」
先輩が私から離れて、ヒールを片手に戻ってくる。片方の足が持ち上げられるのを認識する前に、私の足にヒールがハマる。
「なんか…………シンデレラみたい」
先輩は顔を上げて、困った顔で笑った。
「靴の持ち主を探す手間が省けて助かります」
さ、行きますよ。私に手を差し伸べた先輩の腕時計が、十二時を指していた。
「まほう、とけなくへよはったれす」
「そうですね。十二時を過ぎてもあなたが一人で帰ったりしませんからね」
ただ、本当に飲みすぎだけはやめてください。冷静に言い放つ先輩に、私は良い子の返事をして笑った。

1/26/2024, 1:39:04 PM