とある恋人たちの日常。

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 あとは眠るだけと言うのんびりとした時間。テレビをつけたまま、今日の出来事を話し合う。
 なんでもない日常がとても心地いい。
 
 それでも時々、どうしようもないくらい寂しくなる時がある。そういう時は少しだけ身体を寄り添わせた。
 
「どしたの?」
「んーん、なんでもないの」
「そっか……」
 
 少しだけ彼の声のトーンが落ちた気がした。でも、それだけ言うと彼は私の肩を抱き寄せてくれる。
 
 言わなくても伝わっちゃっているかな。
 楽……だけど……いいのかな。
 
 どこかで、さっきの落ちた声が心に引っかかってしまう。
 もし、彼が寂しいと言えなくなっていたら?
 
 そう心に過ぎった瞬間、私はパッと背筋を伸ばした。
 
「わ、びっくりした!」
 
 突然の私の行動に彼の方がより驚いて身体がビクリと跳ねた。
 
「あ、ごめんなさい」
 
 言わなくてもいい……伝わるなんできっとダメ。
 
 もちろん、そう言うことも大事。
 だけど、今は甘えたいなら、寂しいならちゃんと伝えないと。彼が寂しいと言えなくなっちゃう。
 
「なんかさみしいの。ぎゅーして!」
 
 彼に向けて両手を伸ばす。
 すると彼は、頬を赤らめて朗らかに微笑んでくれた。
 
「よし、来いっ!」
「うりゃー!!」
 
 彼も受け止める準備をしてから同じように私に両手を向けてくれる。
 だから私は彼の腕の中に飛び込んだ。
 
「いっぱい、ぎゅーしてやるぞー」
 
 言葉通りに強く抱き締めてくれる。
 
 なにが寂しいとかじゃなくて、なんとなくだけれど寂しい時が襲ってきていて、私ひとりで受け止めきれない気がした。
 
 だから、こうして彼の腕の中にいられることが嬉しい。この体温が安心させてくれる。
 
 言葉にしてない時、少しだけ触れた彼の体温。それだとここまで安心できたかな。
 
 自然と目の端に涙がこぼれ落ちる。
 
 不安もあった。でも少しずつ安心していく感情にしあわせを感じて溢れ出てまった。
 
 彼に見られたらきっと余計に心配させちゃうから、胸に埋まった顔を上げない。
 だから言うの。言葉にするの。
 
「ありがと、大好き」
 
 すると、一瞬だけ緩んだ彼の腕の力がもう一度込められる。
 
「俺も大好きだよー!!」
 
 
 
おわり
 
 
 
二四五、透明な涙

1/16/2025, 1:37:45 PM