シャイロック

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日の出

 初日の出を見に行こうと出かけたが、みんな同じことを考えるらしく、海岸へ向かう道はやたらと混んでいた。日の出は7時少し前だと言うので早めに出たのに、6時半を過ぎても到着しそうにない。 
 海岸は風が冷たいからと、たくさん着込んできたのが裏目に出て、狭い車内は暑かった。ダウンジャンパーは、降りてからと思い着ていないのに。
 隣で眠っていた妻が車が動いていないのに気づいたのか「もう日の出?」と寝ぼけた声で言ったので、イラッとして「まだ着いてないよ」と冷たく言ってしまった。
 「渋滞だよ、渋滞!」「なんだーまだなのね」人の気も知らず、妻はまた目を閉じて眠ろうとする。「おい、諦めて帰ろうか」「えっ、なんで?ここまで来たのに?」「ここまで来たのに着かないから言ってるんだよ」「えーだって海からの初日の出見に行こうって言ったの、あなたよ」そうだった。俺だった。「言ったけど、これじゃなぁ。まったく動かないんだ」「う〜ん」諦めきれない妻は不満そうな声を出した。
 新年早々、嫌な展開になった。喧嘩するのも嫌だがこの渋滞はどうも何とも・・・。
 「あっ、日の出よ!」妻が叫んだ。「あっち側が明るくなってきたわ」「ホントだ」こんなところで初日の出を迎えるなんて、なんて半端なことになったんだ。考えている間にも、徐々に明るさが増し、20分ぐらいのうちに、道路上の車からも、太陽が見えた。
 「日の出よねぇ」「あぁ」「こういうのもいいじゃない?結局、初日の出見たのよ」「うん、車の中でな」「いいじゃない。水平線から昇るのは見えなかったけど、前に並んだ車に反射してきれいよ」「うんまぁな」なんでも良い方に考える妻に、今まで何度も救われてきた。こんな俺にふさわしい初日の出なのかも知れない。
 「そうだな。きれいだな」「そうね、いつもの朝とはやっぱり違うわね」「うん、まぁ、今年もよろしく頼むよ」「あら、こちらこそだわ」
 もうすっかり明るくなった。愛車は脇道に出て、すいすい走る。「腹が減った。どこかで朝ご飯でも食べよう!」「うん、大賛成!」我が家の新年が始まった。

1/4/2025, 3:02:57 AM