海月は泣いた。

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愛があれば何でもできる?


(ちょっと怖いかもです。狂ってます。ゾッとする感じが嫌いな方は注意)


貴方と出会った春が、あまりに眩しくて。その美しさに魅了されてからというもの、僕の日々はこれ以上に無いほど美しく清廉に爽やかに色めき始めたのだ。
校内の目立たない草臥れたベンチに、貴方は一人横たわっていた。あまりにぐでんと沈んでいるかの様に見えたので、心配して思わず肩を叩いた僕を貴方はぼんやりと見て、それから眼を擦り掠れた声で欠伸をした。その姿に僕はこの人は昼寝をしていただけなんだ!と漸く気づいて、自分が宛らヒーローにでもなるかように、救世主にでもなるかのようにキリッとした顔で声をかけてしまったことを酷く後悔した。あろうことか、貴重な深い眠りを妨げてしまった…!と頭を抱える。そんな僕の挙動不審な動きを静かに見つめる視線が痛くって、恐る恐る目を合わせると貴方はふんわり笑って天使みたいな優しい眼差しで言葉を口にする。
「優しいね」
って。
その瞳が初夏の海みたいにキラキラと煌めいていて、その瞬間僕は恋に落ちたんだよ。

それからの日々はずっと夢心地で、生温い映画でも観ているかのような感覚で時が流れていった。恋が叶うジンクス!なんてものを信じて、後夜祭でいきなり手を取り大きな声で「好きです!」なんて叫んだ僕のことを、貴方はまたあの時と同じ瞳で笑って「同じだよ」って耳際で囁いた。真っ赤になった頬を余裕そうな顔で撫でられて、僕はもっと格好良く素敵な大人にならなくちゃと決心したわけだけど。それはまだ、到底夢のまた夢のみたい。

いつしかね、僕が貴方はいつも大人みたいだから僕は早く大人になって貴方の手を引きたいなあと言った時貴方は見たことないくらいに真っ黒な瞳をさせた。
「大人になんて、ならなくていい」と。
そう、低い声で強く言われて訳も分からず泣いてしまった僕に貴方は酷く焦って、ごめんごめんとひたすら謝っていた。貴方が謝ることなんて一つもないと言い切って強く抱き締めたかったのに、鉛のように身体が重くて糸で縫われたみたいに上唇と下唇がくっついていて僕はなんにもしてあげられなかった。










…ねえ。今までのこと、覚えてた?僕は貴方のこと全部覚えてるんだよ。その全部が大好きなんだよ。分かる?分かってくれる?ねえ。

「分からないよ」
「なんで、なんでなんで、分かってくれないの」
そんなに怒った顔をして…。やめてよ、怖いよ。僕は貴方の笑った顔が好きなんだ。
「…私のために死んでくれるの?」
「うん死ねるよ。貴方が死ねって言うなら」


「じゃあ、今ここで___死んで」
とんっと胸を押された。ふわりと身体が浮いて、一瞬空を飛べる魔法を使えるようになったんじゃないかと思ったんだけど、そんなこと無いみたいだなあ。身体が真っ直ぐ、物凄いスピードで落ちてゆく。
僕を見下ろす顔が逆光でよく見えないんだ。ねえ、もっと見せてくれよ。僕がここでプロポーズなんてしたら貴方はまたバカだねえって優しく笑ってくれるだろうか。どうかな?あは。あはは、ねえ、笑って。笑って!

一生のお願いだよ!笑って!

5/17/2024, 3:43:56 AM