手慰みにいじっているコインを目に留めて尋ねると、先ほど採掘で手に入れたのだという。
なるほど、普段見る通貨ではなさそうだ。採掘されたというが綺麗に磨かれたそれは、太陽光を反射した。
自分が気にしたからパフォーマンスだろう、指で弾いて空中で掴んで見せる。
相変わらず小器用だとコインの煌めきより、流れる動作に感心した。
裏か表か尋ねられたので表だと応える。遊びに付き合っているのが嬉しくなったようで目尻を細める相手に、そんなに喜ぶからこちらも付き合うのだと胸中でつぶやいた。わかっていそうではあるけれど。
せっかくだから何か決めるか、といった相手に特に思い付かず……昼食くらいだろうか。
じゃあどちらの支払いの負担になるか賭けようというので頷く。
別に昼食程度どうということもない。そもそも財布自体がほとんど共有のような扱いだったりするもので。
するっと手の甲からもう片方の手が外される。
そんなこともあったかもしれない。聳え立つビルの前に隣で並び立つ相手を横目に、ふと思い出した。
怯えているのかと揶揄ってくる相手へ肩をすくめる。気を害した風でもなく、いつかのあの日、手のひらで踊っていたコインを取り出す。
こんな手のひらで決められることもあるんだよな、と。
かざしたコイン越しに神の名を冠した摩天楼を見上げた。
7/4/2024, 11:42:58 PM