明日、もし晴れたら学校へ行こう。
彼女は決意する。
太陽が地平線に溶けてゆく。温度に打ち勝てずにだらだらと原型を崩してゆくバニラアイスのように。
溶けてゆく太陽と入れ替わりに街の街灯が目を覚ます。
今日も1日が終わりに近づいている。
真っ白なワイシャツ。紅色のリボン。チェック柄のスカート。ローファー。
身に纏っているそれらは彼女が女子高校生という事実を語っている。
…pm6:30
空気をめいいっぱいに吸う、おいしい。
やはり、ここで吸う空気は苦しくない。
堂山 ゆるあは自身が住むマンションのバルコニーで日が沈み始めてから沈み切るまでを観覧するのが毎日の日課だ。彼女は学校に行く日課がなくなってしまった。
いつからだろう、とゆるあは思考をめぐられせてみた。
いつから私は学校で息ができなくなったのだろう。
高校入学当初は息ができた。それなりにクラスメートとたわいない会話を交わしていたし、一緒に行動を共にしていた子だって何人かいた。
でも日を追うごとに段々とクラスメート達は濃い抹茶を飲んだ時のような顔を浮かべていった。
何が問題なのだろうか。
自分勝手な我儘を押し付けた? 違う。
彼女らの話を遮ってしまった? 違う。
誰かの彼氏を奪ったので恨まれた? 違う。
思い当たる節はない。
わからないことが怖かった。恐ろしかった。
私は仲良くしたいだけなのに。
こわい。おそろしい。
その気持ちが私を支配してたまらない。
息が詰まっていく感覚が日を追う事に重くなっていった。
1度意識してしまうと止まらなくなった。
朝、起きると自分の顔がぐしょぐしょに濡れていた。
雨の中傘を刺さずに歩いた時みたいだな、と思った。
はは、と乾いた空気に自分の声が飲まれた。
あほみたい。
馬鹿にされる為に学校に行っている自分が馬鹿馬鹿しくておかしくてたまらない。
もういかない。
いってやらない。
そう決意した日から学校を休んでいる。かれこれ2ヶ月。
私は毎日落ちてゆく溶けてゆく日を見るだけ。
わざわざ制服を纏って。
そして毎日決意する。明日、もし晴れたら学校へ行こう。と。
晴れることは決してない。
私の心は明日も明後日も明明後日もずっと。晴れることなどない。
分かっているけれど今日も日を見て誓うのだ。
8/1/2023, 5:16:48 PM