hashiba

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帰る家があるから、旅行は嫌いじゃない。以前彼がそう言っていた。そういうものなのか、と妙に感心した記憶がある。やりたいことのために家を捨てた自分にとって、わかるようなわからないような曖昧な感覚だった。今になってこんなことを思い出して、神妙な顔でもしてしまっていただろうか。ランチを終えて店から出たら、帰ろう、と言って珍しく彼から手を引かれた。絡んだ指の先がわずかに冷えている。向いた先は当然のように自分の、自分たちの家がある方角。帰ったら昼寝でもしようか。そんな提案をすれば、少し笑ってから小さく頷いた。


(題:楽園)

5/1/2024, 8:58:12 AM