しゅら

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花畑

 30株の花が咲く花畑のようだ。

 そんな話を同僚にすると、笑われた。
 「ロマンチストだなあ、お前は!」
 そうか?と照れ笑いしながら頭を掻く。受験に合格することを桜が咲くと表現することがある。それに倣って新しく受け持つクラスの子達を花に例えてみたのだが。
 「まあ確かに、あいつら見てればそうやって例えたくなるのも分かる。じゃ、お前はなんだ?蝶か?ジョウロか?」
 「俺か?俺は……肥料かな。枯れて土になった……」
 「はっはっは!アホくせー!」
 そこまで言われると流石にムッとなる。別に理解して欲しいとも思わないが、そこまでこき下ろさなくともいいだろう。
 「人間は花じゃねえ」
 知ってる。
 「お前は酔ってる」
 シラフだ。
 「いいか、お前、俺が言いたいのはな自分を認めてやれってことだ」
 「は?」
 「お前はこう思ってる。俺はもういい歳だ、せめて今を楽しみ未来に輝く子供達のためになれるならってな」
 「そんなことは」
 思ってない。その言葉が出なかった。自分で気づいていなかったが、こいつの言葉はどこか当たっている。
 「人間は花じゃねえ。可哀想ぶってんな、年齢言い訳にすんな。俺ら、まだまだこれからさ」
 言葉が沁みる。傷に?骨身に?それは分からない。でも一つだけ言えることは、こいつは俺を見抜いていると言うことだ。
 もう若くないから。
 やらない理由の言葉は麻薬だ。一度使えば抜けられず、使うたびに深みにはまり、次第に心をボロボロにする。得られるのは一時の安らぎ。毒の囁きをいつしか正論と信じ込み、知らず知らずのうちに身動きが取れなくなる。
 「難しいこと考えてる顔だな?」
 「ああ」
 「ま、いいさ。再来年にでも旅行しよう」
 定年か。俺はどんな言葉を用意するつもりだったんだろう。
 一時の安らぎを得ることは決して悪いことじゃない。折れそうな心を支えるために言葉や物語がある。甘言を、境遇を言い訳に何もしないこと、そればかりじゃダメか。
 俺は変われるだろうか?とりあえずは、からげんき。どんな花を咲かせられるかな。

9/17/2024, 6:50:17 PM