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喪失感

中学時代に1人の友人がいた。
彼は僕の恩人でもある。
僕は自分の声がコンプレックスだった。
当時の僕は声変わりが遅く、高い声でよくからかわれていた。

音楽の時間にみんなの前で歌わされた時に僕の番になると、沢山の人が僕を笑った。先生まで笑っていた。
この件が僕の音楽嫌いとコンプレックスに拍車をかけた。

中学校2年生のある日クラス替えになって緊張していた僕は自己紹介の時間に 上ずった声を出してしまった。当然、笑った人もいた。

けれど、休み時間の時に1人の男子が話しかけてくれた。
「優しい声だね」
僕は衝撃を受けた。
僕のこの声を笑うのではなくポジティブな言葉に変換し表現してくれたからだ。

彼の言葉に何度も救われた。
そんな彼が高校1年生の春に突然亡くなった。
心臓に持病を抱えていたと、このときになって知った。
彼はとても明るい人で、大病を患っていたことを全く表に出さなかった。

僕はとてつもない喪失感を覚えた。
何度も彼の言葉を反復した。
そして彼が褒めてくれたこの声で音楽をやろうと決心した。
高校1年生の夏にギターとボイストレーニングを始めた。
彼の存在を沢山の人たちに伝えたかったのだ。

紆余曲折があり音楽の仕事をすることはかなわなかったが、彼は間違いなく僕の人生をポジティブな方向に変えてくれた。
僕は音楽と自分の声を好きになることができたのだ。

僕は確信している。
人の言葉は現在だけでなく、過去も未来も誰かの心を救うのだ。

9/10/2023, 11:02:13 AM