この世界は、何もかもが透明だ。
はるか昔は色なんてものがあって、僕たちが見ている景色にだって豊かな色があったらしいけれど。
ある時急に色を失い始めて、ついには何色でもなくなった。人々はそれを、無色現象と呼んだ。
何もかもが透明なことで起こることといえば、ありとあらゆる場所に身体をぶつけることだ。
無色なら白っぽいのでは?見えるんじゃないの?
そう思うだろう。だが違うんだ。白も色の1つだから当然無くなってしまうんだ。
全部が透けているといったらいいのか、とにかくどこに何があるのかが分からない。
水で出来た世界の中を歩いているみたいなんだ。
そんな世界でも、色という概念は分かる人が多い。
なぜなら人間だけには色が残っているから。
僕は僕や周りの人に色が残されていなかったら、きっと黒がどんな色か、ピンクがどんな色か分からなかったと思う。
そして、この世界に色という概念が残っているのは、色が失われる前の世界のことを知っている人が多いこともあると思う。
おじいちゃんやおばあちゃん、お父さんやお母さんが僕や妹に色というものを伝えて教えてくれた。
でもそのうち、色というものを自分の目で見たことがある人はいなくなってしまうんだと思う。
色は口伝えだけの幻みたいな存在になって、そのうち伝える必要もなくなって、いつかそっと消えてしまうのかもしれない。
そしてそうなった時、僕たちは本当の意味での無色の世界を生きていくことになるのだと思う。
4/18/2023, 4:46:10 PM