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 西の空に入道雲が浮かんでいる。白くて一段と大きい、立派な夏の雲。私は見た途端、鞄の中身を確認した。今日はスポーティなコーディネートにしてキャップを被っていたため、日傘を置いてきたのだ。
 そうこうしている間に、空には雲が増えてきた。狭まる青空の下、肌に当たる風の冷たさに驚いた。これはまずい。私は駅に向かって走り出した。
 今日おろしたてのスポーツサンダルは、まだベルト部分が硬くて擦れると痛い。でも靴擦れ覚悟の上で走らないと間に合わない。結局、私の鞄の中には折りたたみ傘が入っていなかったのだ。
 先程までの青空を、雲が全部覆い尽くした。入道雲はあんなに白かったのに、空を覆っている雲は暗い灰色だ。いよいよまずいと思ってスピードを上げた。
 目の前に駅が見えた。あと、多分、走って二分くらいの距離だ。少し緩いキャップが脱げそうになり、慌てて手で押さえた。あと少し、もう少し。
 なんとか駅の屋根の下に駆け込んだ。肩で息をする私に周りの人は訝しげな表情をしていた。でも次の瞬間、それどころではなくなった。空が光り、雷が大きな音を立てて鳴ったのだ。
 バケツをひっくり返したような大雨が、駅の屋根に打ち付ける。私は濡れないように奥へと進んだ。よかった、間に合った。私はホッと息をついた。

 これだから夏は苦手だ。
 油断も隙もありゃしないから。

『入道雲』

6/29/2024, 9:11:02 PM