中宮雷火

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【回想】

午後三時。
私は本を片手にベランダへと向かった。
玄関を開けると、傾き始めた太陽が差し込んできて眩しかった。
ベランダにあるイスに腰掛け、私は本を開いた。
ちょっとした哲学書。
私は最初のページをめくり、哲学の世界に入り込んだ。

本を読んでいると、過ぎた日のことを思い出す。
主に子供の頃のこと。
子供の頃、私は「楽しさ」とは程遠い生活を送っていた。
両親から…
いや、これ以上は止めよう。
とにかく、私は楽しくなかった。
しかし、音楽に出会ってから幾分は生活を楽しめるようになった。
どこの誰か分からない人の歌声。
心に触れる旋律。
それだけが総てだった。

大人になり、「逃げること」を覚えた。
私は家を出て、都会に出た。
しかしそこでは…
いや、これも止めよう。
とにかく、上手くいかなかった。
そういうわけで、私は自由を求めるようになって、今ではこんな森の中で生活しているのだ。
ここでは、誰も私の自由を奪わない。
それだけでよかった。

しかし、私はもうわかっている。
この美しい日々も、もうすぐ終わるのだと。
私は本を閉じた。

10/6/2024, 10:37:46 AM