せつか

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差し込む光が痛かった。
この部屋の窓の向こうには、遮るものが何も無い。
だから昇る朝日はまっすぐに、この家の壁を照らし、窓から部屋の中へと入り込む。
ゆうべ、カーテンをきちんと閉めていなかったらしい。まだ開けるのに苦労する瞼をゆるゆると持ち上げて、男は差し込む光を睨み付ける。
ベッドの真ん中を貫く光は、まるで男の体を両断しているかのようだった。

「おーい、起きてるかい?」
ノックと共にドアが開いて、同居人が入ってきた。
彼はベッドで半身を起こした男の顔を窺うように中腰になると、「おはよう」と微かに笑った。
「·····」
くぁ、と一つ欠伸をして、男は同居人を見上げる。
顔の半分が朝日に照らされて、もう半分はぼんやり影になっている。
「カーテン」
「ん?」
「カーテン閉めて。眩しくて目が痛ぇんだよ」
彼は無言で立ち上がり、中途半端に開いていたカーテンを両手で閉める。再び男の元へ戻ると癖のある黒髪に手を差し入れた。
「大丈夫かい?」
彼の顔は全部が影になってしまって、男はその表情を見る事が出来ない。でも多分、嫌な顔はしていない筈だ。同居人は男が朝、起きるのに時間が掛かることをよく知っている。
「もう少し寝てな」
声と共にぐ、と肩を押されて男は再びベッドに沈む。
去ろうとする同居人の手首を掴んで「待って」と言うと、彼は少し不機嫌そうに「何?」と答えた。

「アンタの顔が見えない」
「·····バーカ。カーテン閉めろっつったのお前だろ」
「そうだけどちゃんと見れないのはムカつく」
「意味わかんねえよ。見飽きただろこんな顔」
「飽きないよ」
「あっそ。まぁゆっくり寝てな。今日はなんも予定無いし」
「そうする」
「おやすみ」

おはようからおやすみまで。
世話焼きな同居人の顔を淡い光の中で見つめるのが、男の唯一無二の楽しみだった。


END


「カーテン」

6/30/2025, 3:59:27 PM