心がざわめく時、あの人が現れる。
「大丈夫だから、安心して」
あの人にそう言われると、ホントに大丈夫なんだと思えた。
だから、さっきからずっと待っている。
あの人が現れるのを。
ビルの屋上。深夜三時。
心が苦しくて、楽になりたいと思った。
今日学校で起きたことを思い出して、涙がとめどなく流れる。
フェンスを越え、眼下の街を見下ろした。
「大丈夫だから、安心して」
背後から声がする。
振り返ればあの人が、フェンスの向こうに立っていた。
「ホントに大丈夫だと、思う?」
「ああ、今までだってそうだったろ?僕を信じて」
「でも、怖いんだ。足がすくんで、動けなくなる」
「誰だってそうだよ。でも、一歩踏み出す勇気があれば」
「そしたら、何かが変わるの?」
「ああ、すべてが終わる」
「…あなたは、私を救いたいの?それとも…」
「君の救いとは何だ?この世界に生き続けること?それとも、消え去ること?」
「そんなの、分からない。だから、ずっとここに立ってる」
「それはね、君次第なんだよ。僕は君に、大丈夫だから安心して、と伝えたいだけ。明日学校で立ち向かうのも、今ここで命を断つのも」
「そんな…私が決めなきゃいけないの?どうしたらいいか、分からない」
「決めるのは君だよ。君が自由に決めていい。だけど、君が死んだら悲しむ人のことを考えて。僕のことは考えなくていい。またいつか会えるから」
半年前に、交通事故で死んでしまった私の恋人。
きっと、私の心が作り出した幻。
あなたに会いたくて、でもまだ、この世界にも大切な人がいて。
今、いつにも増して、私の心がざわめいている。
3/16/2025, 3:23:46 AM