今年は割と秋が秋ですね。そうではない年の話だということにしてください。
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【一輪のコスモス】
残暑がまだまだ顔を出す日々。秋というのは暦の上だけで、このまま冬になりそうだ。そんなことを思っていたら、ある日、テーブルに一輪のコスモスが飾られていた。
それはどう見ても花屋の花ではなく、そこら辺の空き地にでも咲いていそうな野の花だった。小さくて、少し歪な花。
「コスモス? どうしたの、これ」
花を飾ったのは同棲中の恋人だ。
「公園の近くに咲いてた。今年はまだ秋っぽいことがあまりなかったから」
せめて秋の花でも飾ろうと思ったらしい。
「この瓶……すごく見覚えがあるんだけど」
俺の記憶は確かなはずだ。薄青いガラスの四角い瓶は、宝石の名前がついた酒が入っていたミニボトルである。
いつの間にこれを飲みきったのか……俺は知らない。
「最近ちょっと飲みすぎじゃないか?」
「そうかなあ。二日酔いにはなってないよ」
「そりゃ蒸留酒が残りにくいってだけだろ」
「休肝日は作ってるよー」
恋人は不満げに口を尖らせる。
「そもそも君の帰りが遅いから」
「なんで俺」
「だって。ひとりで夕ごはんは寂しい……」
囁くような声で呟かれて、罪悪感が湧く。
こいつの酒量を俺が把握できていないのは、一緒に飲んでいないからだ。俺が帰宅した時には、すでに飲んでいることが多い。
つまり……俺のせいか。そういえば、こいつは俺が休みで家に居ると、それほど酒を飲みたがらない。
「ごめん。今はどうしても忙しくて」
「いいよ、わかってる」
すり寄ってくる恋人の頭を撫でて、額に口付けた。
「今度の休み、何か美味しいものでも食べに行くか?」
「え、やだ」
埋め合わせのつもりで言ったら、即却下された。
「なんで」
「家の中の方がいい」
「そうか?」
「だって、外じゃべたべたできないだろ?」
10/10/2025, 11:27:17 AM