苑羽

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子供の頃。
そう言われて、自分の中の奥の奥のそれまた奥を漁ってみたら、存外古い記憶が蘇ってきた。
その日は暑くて、早々に夏の友をほっぽりだし、自転車に跨った。姉のお下がりである小さな水色の自転車とソーダ味のアイスバーが、私の夏の相棒である。ジリジリと肌を焦がす太陽のもと、軽快に田んぼ道を走り出した。
薄暗い倉庫の入り口で、祖父の名を大声で叫べば、「よう来たなぁ」と、仕事着の祖父が迎えてくれた。そうして祖父の膝の上によじ登り、古びたTVを眺めるのが至福の時間だった。画面の奥では、高校球児たちが汗を流している。彼らの息遣いに呼応するように、祖父の呼吸も少しずつ早まる。野球のルールなんてよくわからないけれど、私の息も忙しなくなる。
「打った!」
祖父が弾かれたように叫び、膝の上の私もカクンと揺れる。
「打った、打ったねえ」
私も祖父の真似をして言う。
祖父は、野球が好きだ。取り分け甲子園は熱心にみていた。そこには、祖父の過去の記憶をフラッシュバックさせる、何かがあったのかもしれない。画面を見つめる、あの瞬間の祖父の真剣な顔が、どうしてか思い出されるのである。
「子供の頃」

6/23/2023, 2:29:21 PM