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財布を持って来るべきだったと少女は後悔した。母親と喧嘩して思わず家を飛び出した。幸いスマホだけは手に持ったままだったので、何も考えず電車に乗った。
適当なところで降りよう。帰ろうなどとは微塵も思っていなかった。まだ未熟な少女が冷静になるには時間が必要だった。
終電間際だというのに車内にはそれなりに人が居る。恐らく仕事帰りのサラリーマンに、人目も憚らずいちゃつくカップル。場所を弁えろと、思わず舌打ちしそうになるのを堪える。それでも昼間に比べたらいくらか快適だと感じた。

降りるタイミングを失い、つい終点まで来てしまった。電車に揺られる内に少し頭が冷えたのか、なんでこんな所まで来てしまったんだとまたもや少女は後悔した。
仕方なく電車を降り、酔い潰れて寝ている大人を横目に、改札を抜けて夜の街を歩く。

どうやら今日は七夕らしい。至るところに短冊が飾ってある。小さい頃はこの時期になると、織姫と彦星が無事会えるのか心配でてるてる坊主を窓に吊るしていたな、と懐かしい気持ちになった。
何処を見ても明るい。人混みの中をただ歩いた。この時間でも何だか熱気を感じて、まるで皆睡眠なんて知らないかのように見える。
織姫と彦星の事なんて誰も考えていなくて、ただ我欲を満たしたいが為に生きている。

立ち止まってSNSで"七夕"と検索すると、色々な人の願い事がずらっと並んだ。他力本願なもの、些細な幸せ、世界平和。
本来七夕の願いというのは、自身の努力で実現可能な事を願うのが良いとされるらしい。せっかくだから自分も何か願っておくか、と少女は心の中で呟いた。

空を見上げても天の川は見えない。喧騒の間を生暖かい風がすり抜ける。
知らない男に声をかけられたが、無視して駅へと引き返した。

7/8/2024, 12:08:35 AM