駄作製造機

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【海の底】

バッシャアアアン

『ー!ーーー!』

たくさんの観光客達が楽しく笑いあう中、私は崖の上からこの身を投げる。

綺麗。

汚れなく澄み切った水。

魚達は珊瑚礁の側で私を見ている。

労働に疲れた社会人の行き着く先は、海だと思う。

上司の怒号も、お局の陰口も、全て波と水のこもった音が消し去ってくれる。

私は海が好きだ。

時に荒々しく、時に穏やか。

確かに、サメや自然災害は怖いが、私はこの海が好きだ。

青々しくて、心が落ち着く。

都会で廃れた心を、この海が帳消しにしてくれる。

小魚が私の周りに集まり、ツンツンと突く。

私は魚達に微笑み、口からまあるい玉を出す。

コポ、、コポコポ、、

この音。

空気が抜けて、苦しいけれどとっても、、とっても心地いい。

自然が出す音、自然が作り出した音。

誰にも真似できない、心地いい音。

眠たくなって来た。

苦しいけれど、心地いいの方が勝っている。

全てに身を任せて、私は海の底へ沈んでいく。

霞む視界の端で、黒い無数の手が伸びて私を掴む。

嗚呼、、やっぱりそうだね。

黒い手は、私と同じ社会人のスーツを着ていた。

ハハ、、

また口から空気が出ていく。

私は黒い手を受け取り、自分の頬に当てる。

冷たい。

"大丈夫。こっちは楽だよ。"

"海の王様が私達を憐んでくれるの。"

黒い手は、私に向かって話しかける。

下を向くと、黒い手はまだまだたくさんあって、そこから下は太陽の光が届かない底だった。

"一緒に行こう。"

優しく私を迎え入れてくれた手に、私は頷き返した。

ぐんっと体全体を引っ張られ、私は海の底へ沈みゆく。

ゆっくり、ゆっくり。

そして"待つ人"になる。

都会で廃れた心を癒しにやって来て、海の虜になってしまう、労働に疲れた社会人を。

ずっとずっと、待ってる。

この海の底で。

みんなと共に。

私は今、とってもシアワセ。

ーーー

『はぁ、、会社辛いなぁ。、、』

顔を上げると、電車に貼ってある旅行広告にハワイが映っていた。

『綺麗、、海かー。』

スマホを取り出し、この辺の浜辺を検索する。

『お、、此処綺麗。』

明日、行ってみようかな。

ゴーーーッ

電車がトンネルに入った瞬間、電車の窓に映った自分が、ものすごく濡れているように見えた。

『??、、気のせいか、、寝不足だからなぁ、、』

早朝の誰もいない電車に、私のため息が響いた。

1/20/2024, 10:25:06 AM