『顔をあげる』
1、触れないこと
2、目線を合わさないこと
3、顔をあげないこと
4、見られないこと
こうも夕焼けが赤い日は、顔を上げて歩いてはいけない。私が小さい頃からずっと言い伝えられてきた約束。
顔を上げて歩いたらどんなことになるのかは、聞いたことがない。もっと正確に言えば『誰も見たことがないから分からない』のだ。
バカバカしいと笑う人間は、この町にはいない。なぜなら、みなソイツの影を見て嘘では無いことを知るからだ。
遠くからぼた、ぼたと何かが落ちる音がする。俯いた状態のまま歩いているもんだから、その正体は分からないが確実に私のほうに近づいてきている。
真っ赤な夕陽がソイツの影を大きく伸ばしていた。
顔を俯かせていたって、影は嫌でも視界に入ってきた。
人の形をしているだけのなにか。ソイツは歩く度に腕や他、体の一部らしきものをぼたぼたと落とす。そしてすぐに、水が湧くかのように体の一部が生えているようだった。
1歩、また1歩と近づいてきた。
私は体を縮めて、頭をぐっと下に下げた。どうか早く通り過ぎてくれ。もしかすると、頭を下げている様子はそんな祈りの姿にも見えるかもしれない。
ぼた、ぼた、ぼた。いつものようにソイツは歩いている。
私の真横ほどに来た頃だろうか、いつもとは違うごとっという音が聞こえた。するとソイツは動きを止めた。
不気味な行動に、顔は上げずに視線だけを横に動かした。
「なに……」
溶けているのか腐っているのか分からない、人の頭部のようななにかが私のほうにコロコロと転がってきていた。
逃げればいいのに、私の足は全く動かなくて。コロコロと転がって、私の足元にまで転がって。
そして、
「あ」
ソイツに私の顔を見られた。
(テーマ:ルール)
4/24/2024, 12:20:58 PM