「ねえ、私との今までの想い出の中で、一番心に残ってる出来事って何?」
彼女が突然尋ねてくる。
「一番の想い出…そーだな、富士急ハイランドは楽しかったな。ほら、君がスマホを失くして探し回ってさ、閉園間際に観覧車乗り場の手前に落ちてるの見つけて…」
「そーゆー失敗談はいいからさ、なんかもっとこう、ないの?キラキラ輝いてる私との想い出みたいなの」
「キラキラ…?想い出はそんなに輝かないって。静かにそこにある感じ」
「もう…なんでそーゆーこと言うかな。想い出は自分で美化してあげれば輝くんだよ?」
病室の窓には、冬の夕焼け空が広がっていた。
君が横たわるベッドの横に付き添って、真っ赤な空を眺めている。
「今まで、いろんなことがあったよね。二人で作ったたくさんの想い出があるでしょ。すごく楽しかった。でももうすぐ、そんな想い出も作れなくなるのかな」
君が寂しそうにつぶやく。
「そんなことないよ。すぐにまた、一緒に楽しい想い出を作れるようになるって。だから、まだまだ頑張らなきゃ」
彼女の不安な気持ちも分かる。
自分がこれから体験する、生命に関わるイベントに、緊張し怯え逃げ出したくなっていることも。
でもこればかりは、どうしたって代わってはあげられない。
君にばかり重荷を背負わせて、心が苦しくて痛いけど、もうすぐパパになる僕も頑張らなきゃ。
これから、新しい家族が増えるんだから。
きっと、今まで以上に幸せな、たくさんの想い出が作られていくんだから。
11/18/2024, 12:00:59 PM