君はいつも前以て連絡してくれない。同じマンションに住んでいるから、突然玄関の呼び鈴が鳴る。インターホンのカメラに映るのは案の定君だった。
「今日は何?」
玄関を開け、気怠げに尋ねれば君はいつものように出かけよう、と言う。出掛けるにもそれだけの身支度まではできていない。部屋に招き入れる。
「どこに行くつもり?」
それに君は笑って答えた。答えがないならと君の服を見ながら自分の服を決める。服と鞄、アクセサリーを決めて洗面所に向かった。
身支度を整えて戻れば、君は慣れたように寛いでいる。実際慣れているだろう。いつも当日やってくる。だから君の好むお茶を置いているし、君に本棚見ていいよ、と言っている。君を招けるよう部屋は片付けてある。
君と出掛けるのは嫌いじゃない。家を出てふたりで歩く。よく晴れた日だが暑すぎることもなく快適な気温。湿度も高くない。であれば、屋内で過ごすことはなさそうだ。
「前日までに伝えておこう、とか思わない?」
「出かけたくなるのが当日だから」
「大変不本意ながら用事があるときもあるんだよ」
わかっているよ、と君は笑う。そのときはひとりで出かけるだけのことだと。知っている。
「君みたいにフットワーク軽くないんだ」
「用事がなければ断らないくせによく言う」
確かに君の誘いを断ることはほとんどない。自分の予定がある日を君に伝えているのも事実だ。
「世界は君の知らないことばかりなんだから」
引きこもっているつもりはないが、自分の世界が閉ざされていることには気付いている。そこに希望が見出だせないのにその中に閉じこもっていることも。
だから君は家の中から出してくれる。世界が広いことを教えてくれる。そこまで考えていないかもしれないけれど。
君に甘えている。君が連れ出してくれる現状に甘んじている。それでも、君は何も言わないから、いつも、君を迎える準備と外に出る準備だけしている。
8/29/2024, 3:34:08 AM