子猫
「えぇ〜! おい!また猫かよ神様!」
「ああ、すまぬすまぬ間違えた、間違えたがもう生まれてしまったから変えられんのじゃ、後は、また死んで戻って来たら話そう、まあ、ゆるりと見物しろ、今度は生まれながらの飼い猫じゃ、まあ、達者で暮らせ」
「何が、達者で暮らせだ!ヘボ神様、何度も何度も猫に生まれさせやがって!もう何周目?いや、もう百万回ねこだ!」
「今度は、犬のお巡りさんになって可愛い子猫ちゃんの世話をしたかったのに!」
彼は、百万回猫に生まれ変わって今また神様の手違いで猫に生まれ変わり、子猫から始めることに悲観しているのであった。
「もう、退屈だ、退屈でしょうがない、今度は生まれながらに飼い猫のようだが、日がな一日ぐうたら生活だ、兄妹たちも母親もみんなそうだな、デブだ!ルーティンは決められたこの狭い檻の中、俺の特等席は違うものたちが通り過ぎて行くのが見物出来る場所だけだ、つまらない話だ、そこから日がな一日、目に写り通り過ぎるものをあくびをしながら時に毛づくろいしながら眺め、飯食って、糞して寝るだけだから肥える、見ろ今の俺の姿、ブヨブヨのデブ猫で野生のカケラもない」子猫のくせに爺のような小言を吐きまくるのは、猫百万回目の子猫だから許してやって欲しい。あくびをひとつ、また猫百万回目の子猫は文句をたれ始める。
「俺は、その時誰の猫でもなくて…ってのやっただろこの前、それで白い猫に出逢うんだ、あの白い猫どうしているだろう、また猫に生まれていやしないか?」
「今度は漁師の猫でもなくて、雨の中濡れてカラスに狙われていた子猫だったな、あの時は肝を冷やした、生まれて来たと思ったら逆戻りか、まあ、俺たちは、人間みたいにてめぇでてめぇの命を終わらせるような意気地のない鬼畜でも殺し屋でもねぇから、その最後の瞬間まで生きる、生きるだけだ…まあ、寿命があれば死のうとしたって生きてるもので、その時俺は救われた、書生とかいう人間に抱かれて先生の家に行った、確かあの時は、吾輩とか自分を呼んで、先生の残した酒というのをしたたかに失敬し、したたかに酔って候、いい気持でお勝手場まで歩いて行き、喉が渇いて水瓶の縁に登り中を覗き込んだところで記憶が途絶えた、、、それから何回生まれ変わったろう、何度生まれ変わっても猫だ、猫でしかないな俺、、」
子猫は、その時大きなお屋敷の飼い猫でしたが彼は、猫なので金銀敷き詰められた絨毯も高そうなブランド品の食器にも興味がないのでした、そして親兄弟姉妹たちのように子猫のくせにふてぶてしく肥った野性味のない自分の姿にもため息が出て、そんな自分を「かわいい〜」って、臭い体や毛やベタベタした顔に擦り付けられるのが嫌で仕方がありませんでした、以前は、ここよりも広い広い仕切りのない場所を自由に歩きまわり、狩りをしたり、時に人間にすり寄ってゴチになり、沢山名前を持ち、喧嘩をしボスと呼ばれ、いつか喧嘩に負けて人知れず去る、そんなことを繰り返し、ある、冬の寒い日に縁側で婆ちゃんに「寒かろう、温たたまってゆけ」と言われて縁側の奥のコタツという夢みたいに温かいものに包まれた時、飼い猫ってのも良いなと思い目を閉じたら開かなくなり、それから何度も野良あがりの飼い猫をあの手この手で人間に近づいてはやっていたが、今度は生まれながらの飼い猫だ、何の不自由もなく寒くもなく暑くもなく飢えもなく、狩りも喧嘩も人間で言えば生きるための戦いも冒険もない暮らしだ、ふと子猫は、人間が自分で自分の命を殺す理由が分かった気がしていた。
百万回目の子猫物語
★追記、これは幾つかの物語をリスペクトしてオマージュした物語です、多頭飼いとか飼育方法とか持ち出す物語を読むセンスの無い方には不向な噺ですので悪しからず。
令和6年11月15日
心幸
11/15/2024, 12:58:56 PM