まにこ

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俗物的な本などではよく見掛けるあの台詞。
普段であれば絶対に言うわけがない内容のそれを、まさか愛しの恋人の口から直接聞ける日が来るなんて思いもよらなかった。
言い慣れていないせいで声は上擦り、頬は林檎のように染まり、視線はソワソワと宙を彷徨っている。
「……プレゼントは、俺だ」
どこで覚えてきたのだそんな殺し文句。
聖夜に久しぶりの逢瀬。街は色めき立ち、煌びやかな灯りが夜を美しく染めている。
この日のために毎日必死にアルバイトして、年上の恋人と過ごすホテルのスイートを予約した。
恋人は社会人で、未だ学生である自分よりも遥かに金もある。それでも彼氏として今の自分にできる精一杯のプレゼントを贈りたかったのだ。
キラキラと彩られた街を一望できるこの部屋で、とびっきりの甘い夜を過ごすと決めていた。
普段は仕事に忙殺されている恋人の時間を、この日だけは自分のためだけに割いてもらえるだけで十分に幸せだと思っていたのに、先に風呂から出てきた恋人から会心の一撃を喰らうだなんて、こんな嬉しいサプライズがどこにあろうというのか。
「……いらねえのか」
いけない、つい心が違う所へと彷徨ってしまっていた。こちらの服の裾をぎゅっと可愛らしく握る、世界一大好きな恋人から世界一嬉しいプレゼント。据え膳食わぬは男の恥、である。
「喜んで、いただきます」
二人のクリスマスはまだ、始まったばかりである。

12/23/2024, 9:43:31 PM