君の名前を呼んだ日、私は覚悟を決めた。
正直保身だった。証拠隠滅を図ろうとした。
君と学タブを通して、禁断の恋仲になろうとしたことをメロスのように恥じたのだ。
ふと、学タブ内の履歴情報が気になってしまった。
一刻も早く削除しなければならい。それは、思い出も、全部、ファクトリーリセットをするように、間断なく。けれど、ずるずるとここまで先延ばしにしてきた。
学校では苗字で、気持ちの隠蔽をしていて、文字でのやり取りでは年齢差を忘れて「〜ちゃん」などと呼んでいた。それが、その日からは名前で呼ぼう、と決めた。
名前を呼ばれた君は、試験管などを机に置いて、ふらりと振り返る。
長い髪はフィギュアスケートの足のように軽やかに左回り。それから訝しげに首を傾ける。「何、急に」と。君と私以外、誰もいない理科準備室。いつもなら、思春期早発症のような大人の階段を駆け足で駆け上がっていく行為を平然とするのに。
この日はしない。しないつもりだった。
けれど、君は……近づいてきて。
「もう少しだけ、いいでしょ?」
と言って、足元でしゃがんだ。
柔軟剤の香りが髪の毛から立ち上がる。それで私はもう、メロスのように赤面となる。
5/27/2025, 9:52:42 AM