ゆかぽんたす

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気づいたら、目で追っていた。
名前は“ヒロト”先輩。みんながそう呼んでるから分かったけど、どういう漢字なのかは知らない。10月生まれ、天秤座、O型。サッカー部のキャプテン。チーム1のムードメーカー……ではなくて、ヒロト先輩はあんまり笑わず、常に冷静な人。でもそこがいい。
ある日、グラウンドを横切る時にすごい歓声が聞こえて。何だろうと思って覗いてみたら先輩がいた。豪快なドリブルとシュートを決めて力強くガッツポーズをした瞬間を見た時、もう私の目は先輩から離せなくなっていた。成程これが一目惚れなのかと思った。

相も変わらずにサッカー部の練習を眺めていたある日。ドリブル練習をしていた先輩が不意に顔を上げた、その時にばっちりと目が合った。先輩が私のことを見た。初めて目が合った。それだけでもう心臓が大変なことになっているのに、なんと先輩が、笑ってきたのだ。こっちに向かって。嘘でしょう。勝手に独り言が出ていた。憧れの先輩がこっちを見て笑っている。想定外のことが起きて、どうしていいか分からなくなってしまう。手でも振ってみようか。ゆっくりと右手を上げた私のすぐ後ろから、ヒロト頑張れーと声がした。先輩の名だ。先輩はそれに反応して手を上げる。まるで私に振ってるかのようにも見える。
ちょっと待って。もしかして、と思って振り向くと、そこには女子生徒が1人立っていた。その人も手を振っている。
「……え?そう、なの……?」
もう頭の中のことが全部、言葉に出てしまっていた。2つ分かったことがある。1つめは、想定外のことが起きるとどうしていいか分からなくなってしまう、プラス、思ったこと全部口に出てしまう。
2つめは、先輩の視線の先がこの女の先輩だったということ。
その人は私の横を通り過ぎヒロト先輩のもとへ小走りで駆けていく。それはそれは幸せそうに。
なんだ、私じゃなかったんだ。やっぱりね。そりゃそうか。この一連の感情ももちろん、口から出ていた。けっこうな独り言を呟きながら、私はグラウンドから離れた。さようなら、私の初恋。

7/19/2023, 1:10:27 PM