22時17分

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胸の鼓動を調べる検査がある。
別段、特別な検査ではない。
全国どこでも、あるいは年齢問わず。
法律で決まっているからという真っ当な理由で、大人は普通に受け入れるべき出来事。

内科検診である。
聴診器を当てて胸の音を聞く。
心臓の音を聴き、ちゃんと動いているか調べるだけ。
それは年に二回、春と秋に訪れる。
どうしてなのか、子供たちにはよく分からない。

昼休みの後、幼稚園の先生の声に呼ばれて列を作る。
人数は30人。対象年齢は5歳。
来年春になれば小学校に入学する、背の小さな集団だった。

男女混合の列。
背の順でもなんでもない並び方だった。
だが、列の前の方はおとなしく、後ろにいくにしたがって私語をする子供たちが多い。
列の十人くらいは、私語をしても先生たちには気づかれない、という量の笑い声が聞こえている。

内科検診について、特に説明する様子はなかった、とその子は思った。その子は列の後方にいて、ぞろぞろと遅めに歩き、順番待ちをする。
先頭から順に、何かをしている。
何をするのかな。と列の先頭が気になるように、その子は小さなかかとを上げて背伸びをするようにした。
しかし、ほんの数センチくらい高くなるだけで見えない。

一人ずつ、知らない大人の前に立たされていた。
「えんい(園医)」と呼ばれる知らない人だ。
「えんい」にはいつも、看護師がいた。残念ながら、歳は食っている。それにメガネ越しの目も笑っているようで笑っていない。本当は子どもなんて好きじゃないのだろう。

その子の名前が呼ばれて、顔を見られ、本人確認される。
「じゃあ、めくって~」
と「えんい」に言われ、戸惑っていた。

いつもはやさしい幼稚園の先生は、後ろに回ってその子の両手首を固定していたからだった。
誰がめくるのだろう。どこをめくるのだろう。そのままなのか。言い間違いなのか。
子供の表情。戸惑いと微かな目の動き。
言葉にできるほどの年齢は、残念賞。持ち合わせていない。

助手の看護師が、許可なくその子のシャツの裾へ手を伸ばし、上へ持ち上げた。
シャツの下はまだ誰にも見なれ馴れていない白い肌があった。
その子自身も、上半身を見られた、という感覚はまだ芽生えていない。
「じっとしててね〜」
服をめくり上げ、他人の手によって鎖骨が見えるほど持ち上げられた。それで素肌に判を押すように、園医は直に当てた。

十秒も満たない時間。感覚。
その子の年齢では目的も何もわからないもの。

円盤型の銀色の道具で、布のない胸の中央に当てられた。
そうしてその変な恰好で、おなか側と背中側を看られた。「はい、いいよ〜」
と言われ、その子は解放。
次のこどもにバトンタッチ。
同じようにシャツをめくり上げ、上半身を裸にさせた。
大人たちは各々の仕事の役割を理解した連携を見せた。
分け隔てなく子供を拘束し、心臓の音を効率よく聴いていた。鼓動のスピードは皆速い。

9/9/2024, 8:33:12 AM