粉末

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「私の数年間。なんだったんだろう。」
酒が入るといつもより陽気になってハイセンスな笑いを提供してくれるこの人が、めずらしく遠い目でひとりの世界に入ってしまった。
「ばかだよねえ。何を信じていたんだろ。あいつか。あはは。」
泣いているように見えてひやりとしたが違った。
とろけた目でほとんど水になってしまった梅酒をこくりこくりと飲み干した。
「すっかりおばさんになっちゃったよ。おほほ。」
「おばさんではないだろ。全然。」
「あらあらお上手ねお兄さん。唐揚げあげちゃう。」
はい、あーんとひとくちにしてはでかめの唐揚げを差し出してきたので素直に従う。
「…俺と一緒にいたらいいだろ。あんたのその数年間を取り戻すから。」
「えー?それって私の都合の良いようにとるよ?」
「いいよ。」
「ふふ。ありがと。もうひとつ唐揚げあげちゃう。」
「…どうも。」
俺はこの人のこの笑顔に弱い。
唐揚げなんか無くったってなんだってしてやるさ。


ありがとうね。私と一緒にいてくれて。
とても楽しくて幸せな日々を過ごせているよ。
うーんでもまあどんなに今を充実させても失った時間を取り戻すことは出来やしないんだけどね。
それはそれ。これはこれなのだ。


失われた時間

5/14/2024, 1:59:30 AM