あと 何日生きられるだろうか――。
闇夜ひとり 命を静かに燃やす。
うっすらと汗ばむ身体 ひんやりとした夜風が心地よい。
「蛍を捕まえたの」
小さな両手をそっと籠のように合わせ そう微笑む君。
指の隙間から漏れ出る光は 淡い愛の色だった。
ひと夏が終わるのを待たずして 君は死んだ。
君との最後の記憶は
あの蛍が君の手の中で息絶えたこと。
誰にも愛を伝えることのないまま
命の灯火が消えてしまった あの蛍と
幼くして 流行り病に身体を蝕まれた君が重なる。
あれから十数年。
これは天命か 僕も君と同じ流行り病に冒された。
口元の血を袂(たもと)で拭いながら
あの蛍の墓の前でしゃがみこむ。
自分が蛍を死なせてしまったと
涙を滲ませ 君が弔った墓。
こうしている間にも 刻一刻と
己の命が削られているのが分かる。
血が染み込んだ袂に 蛍一匹。
とうに季節外れとなった 孤独の蛍に同情する。
「無意味だと言うのに お前は」
穏やかに点滅を繰り返す彼に 思わずぽつりと嘆いた。
ふいに込み上げてきた 激しく大きな咳。
蛍が 飛び立つ。
朦朧とし、ぼやける視界に映る あのやわらかな光は
何年の時を経ようとも 変わらず愛の色。
2023/10/16【やわらかな光】
10/16/2023, 4:00:05 PM