かたいなか

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「この時期にこのお題は、なかなか、根源的……」
たしか3月31日頃に、「幸せに」ってお題で書いた記憶があるわ。某所在住物書きはスマホに届いた通知文を見ながら、何をどう書くべきか悩んでいた。
いくつかネット等で集めたネタはある。「幸せは相対的」とか、「幸せは解釈次第」とか。
それをどう物語にしろというのだ。

「前回の『幸せに』では何書いたんだっけ」
過去投稿分確認用に、新しく入れたアプリを――ウェブ文章リーダーを見る。
どうやら、職場でチョコを食べる小さな幸せをハナシに落とし込んだらしい。

――――――

正月三ヶ日が終わって、1日過ぎて、今日の1日が終われば3連休という方も多かろうと思います。
今日は2024年最初の週末ということで、こんなおはなしをご用意しました。

都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家には、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
なんと、父狐も母狐も、東京都民として(年齢等々でいくつか嘘っぱちが書かれている)戸籍を持ち、労働し納税しておるのです。
昨日から、某病院で漢方医をしている父狐、2024年の初夜勤。今朝仕事を終えまして、午前10時頃、ヘトヘトになって帰ってきました。
仕方無いっちゃ仕方無い。父狐の勤める病院は土日も祝日も対応する病院ですが、それでも年末年始は人が混むのです。

「いま、かえった、よ……」
くぅー、くぅー。コンコン父狐、弱々しく一軒家の玄関で鳴いて、お靴を脱いで台所までトボトボ。
夜勤から帰ってくる父狐のために、茶葉屋を営む母狐が、ハーブティーを作り置きしてくれているのです。
おなかを空かせて帰ってくる父狐のために、おばあちゃん狐が、お正月のお餅を使ってリメイクおはぎ風を作り置きしてくれている――
筈なのですが、それはそれで、どうやら食いしん坊な末っ子子狐が、ぺろんちょ食べてしまったようです。
「あぁ。生き返る……」
温めたハーブティーから、少しだけ、ミントとベルガモットのスッキリした香りが咲きます。
ひとくち、ふたくち。母狐の気遣いを口に含んで、父狐に少しだけ、幸せが戻ってきました。

ちょっと回復した幸せを消費して、次は父狐、家事と家事と家事なのです。
コンコン父狐、料理スキルが絶望的で、お肉をことごとく炭に一括変換してしまう錬炭術師。
そのかわり、掃除洗濯、買い出しにゴミ出し、消耗品の補充まで、名の有る家事も、名も無い家事も、全部ぜんぶ、率先してテキパキな狐なのです。
狐の子育ては共同作業。母狐に任せっきりになんか、絶対、ゼッタイ、しません。

お賽銭箱の中身を整理して、硬貨を母狐の茶葉屋のお釣り用にまとめて、洗濯物を取り込んで畳んでしまって、ちょっと廊下と居間のお掃除なんかもして……
「がんばった。うん。がんばった」
コンコン父狐、正午前までにハーブティーで回復した幸せを、全部使い切ってしまいました。
「かかさん、私、頑張ったよ。褒めておくれ」
なんてったって夜勤明けからの家事三昧。コンコン父狐、眠くて眠くておなかが空いて、バッタンです。
すぐ補給できる幸せは、すぐ消費してしまうから、しゃーないですね。
「かかさん……」
くぅー、くぅー。コンコン父狐、弱々しく、愛しい愛しい母狐を呼びます。
居間のフカフカソファーの上に、父狐、倒れて横になって、ぐてん。目を閉じてしまいました。

と、その時。
ちょっと早いお昼寝から起きてきた末っ子子狐が、父狐の帰宅に気付いて走ってきました。
「ととさん、おかえりなさい」
小ちゃなお手々に白と小豆色。1個だけ、おばあちゃん狐が作り置きしてくれたスイーツを、おはぎ風を、父狐のために残していたのです。
「ととさん、おはぎもち、どーぞ」
コンコン子狐、自分が食べたいのを我慢して、1個残したおはぎ風を、つまり粒あんで包んだ焼き餅を、父狐の口元に近づけました。

わぁ。かかさん、かかさん。私達の末っ子は、こんなに優しく育ったよ。
父狐は一気に嬉しくなって、幸せになって、なんなら涙もちょっと出てくる心地です!
コンコン父狐、ほっこりじんわり、幸福にお礼を言って、子狐からおはぎ風を受け取りました。
一気にドカンと来る幸せは、じんわり、長〜く残りましたとさ。 おしまい、おしまい。

1/5/2024, 5:21:22 AM