“最悪”
屋上。
大嫌いなアイツがフェンスの外に立ってる。
深呼吸をして、フェンスを乗り越えた。
フェンスを掴んだまま縁を進む。
「何してんだよ」
こちらに気がつくと顔を顰めて言った。
それに答えずじっと目を見つめると彼は舌打ちをして居心地悪そうに目を逸らした。
そう。
屋上は立ち入り禁止だ。
今は互いにルールを破っている。
ストン、としゃがみ込んだ彼の金髪を風が弄ぶ。
今日は雲ひとつない快晴で、夕陽に赤く染め上げられた空はなんだか幻想的だ。
何も言わずに、唐突に、飛んだ。
一瞬襟を引っ張られたような感覚があって、気がついたら彼が隣にいた。
右手で襟を掴んでいる。
「最っ悪…!」
「最悪だな」
言葉とは裏腹に彼はとても楽しそうに笑った。
ああ、最悪だ。
そんな事を思いながら屋上のフェンスによじ登り、そのまま腰を下ろしてプラプラと脚を揺れさせる。
ようやく決心した頃にはもう日が沈みかけていた。
屋上の縁に足をつける。
深呼吸をしていると視界の端に誰かの髪が映った。
小さい頃はよく遊んだのに、中学に入ってから会わなくなった幼なじみ。
「何してんだよ」
思わず顔を顰めてしまった。
真っ黒な瞳にじっと見つめられて、落ち着かなくて目を逸らした。
監視されてるならお預けかと、諦めてしゃがむ。
地面を蹴った音がして慌てて顔を上げると、幼なじみが地面に向かって落下していくところだった。
咄嗟に身体を乗り出して服を掴んだ。が、重力に引っ張られて一緒に落ちる。
「最っ悪…!」
「最悪だな」
自分のタイミングで飛べなくて最悪。
でも、幼なじみと一緒ならそれはそれでいいのかも
6/7/2023, 2:28:13 AM