「宇宙の最小単位ってひもなんだってぇ。」
独特の間延びした声で空美が言った。
彼女の名前は空城 空美(くうじょう そらみ)。
私の幼馴染みだ。
空美はなぜか科学雑誌Newtonを愛読していて、
毎号欠かさず読んでいるらしい。
空美の部屋の本棚には、
過去数年分のNewtonがずらりと並べられていた。
空美は続けた。
「でさ『超弦理論』っていうんだけど、
『超ひも理論』ともいうんだよね。」
「なんでひもなのかな?」
「見えないくらい小さいのに、ひもなんておかしいよぉ。アハハ」
空美は能天気に笑っていたが、
意外と鋭い指摘かもしれない。
「超弦っていうんだから、糸の方がよくない?」
私は答えた。
「たしかに~。じゃあ、超いと理論だね。」
といって、空美は目を細めてにこにこと笑った。
私は空美のこの笑顔が好きだった。
空美の制服は白くて、ふわふわしていて、いい匂いがした。
私がいま空美に見えているものも、
糸でできているのかもしれないと思った。
もしかしたら、赤い糸と呼ばれるものも
同じような物質でできていて、
最小単位まで拡大してみたら、
見えたりするんだろうか。
私の赤い糸の先は、
どこに続いているんだろうか。
空美のにこにこした笑顔を見ながら、
ふと、そんなことを思ったのだった。
「糸」 完
6/19/2025, 9:54:16 AM